紺色でも水色でもない青に惹かれた。
アーティスト東海林たぬき
不思議な可愛さを持つオリジナルキャラクターの陶器作品を発表している東海林たぬきさん。陶器ならではの優しい風合いが魅力で、キャラクターの形がそのまま花瓶になっている作品も人気です。そんな東海林さんがひと目で気に入ったのは、ロイヤルブルーのシュガーキューブでした。
コンパクトだけどマチがしっかりあって文庫本も入る
青が好きで、ファッションアイテムも青を選びがちなんです。だから、このロイヤルブルーのシュガーキューブをひと目見て「かわいい!」と気に入りました。紺色でも水色でもない、他ではあまり見ない青ですよね。
青が好きなんですけど、あまり似合わないという自覚があって。だから、顔から離れたところで青を取り入れたいんです。肩掛けのバッグはちょうどいいですね。
シュガーキューブは小さいけれど、マチがしっかりあってたくさん物が入ります。文庫本が入るのがありがたい。普段はよく古着のカジュアルな服装をしているので、バッグが本革だとコーディネートがひきしまっていい感じになります。
ショートヘアなので、大きめのフープピアスなどをつけていることが多いです。服がシンプルな時は、耳を派手にするとバランスが取れるんですよね。今日つけているピアスは、自分でパーツを買ってきて作りました。大抵、呑みながらお酒の勢いで作るため、激しい仕上がりになりがちです(笑)
思ったような色や質感にならないのも、陶芸のおもしろさ
髪を切って染めたのは、会社を辞めた時です。会社の身だしなみ規定が厳しかったので、「これで自由だ!」と思い好きな髪型にしました。
学生の頃から絵を描くのが好きで、デザイン科の短大に進みました。でも、それで食べていくのは難しいと感じ、就職したんです。仕事以外の時間で、落書きのようなものですが、イラストを描くことは続けていました。
会社を辞めてしばらくしてからコロナ禍になり、2020年は毎日ドローイングをインスタグラムにアップしていました。キャラクターの顔などの原型が固まってきたのがこの頃です。
2021年に勤めていたギャラリーの企画で、作家さんを引率して愛知県瀬戸市まで陶芸合宿に行きました。私も時間があったので「描いていたキャラクターを立体化してみよう」と粘土をこね始めたのが、現在の陶作品を作るきっかけになりました。
作品を作る時は、最初に絵でキャラクターを描いて、粘土で立体化し、2週間ほど乾燥させます。それを素焼きして、顔をつけて、色を塗り、もう一度焼きます。基本的に同じ形の子は作らないので、毎回キャラクターデザインからやるんです。出来上がるまでに短くても1ヶ月はかかります。
釉薬の扱いは本当に難しいです。毎回予想がつきません。思ったような色や質感にならなかったりして、他の釉薬を塗って焼き直すこともしばしば。最初はよく「こんなつもりじゃなかった…」とショックを受けていたのですが、「これも焼き物の味だよね」と言ってくださる方が多く、今は偶然の出来栄えを楽しんでいます。
すれ違った宇宙人の姿を思い出して作るような感覚
キャラクターの顔は、粘土で形を作る工程の最後に決めています。装飾などもつけた状態でじっと見て、「お腹が出ていてゆるそうな子だからキュルキュルした目かな」、「こいつはトゲがついていてちょっと強そうだからジト目にしよう」といった感じで決めるんです。
私はあまりこの子たちの背景や設定に興味がないんです。何を食べているか、どこに住んでいるかといったことは考えていません。造形としてキャラクターを生み出しているだけ。すれ違った宇宙人の姿を思い出して作っているような感覚です。購入された方が、ミニチュアの家具などを周りに置いて写真を撮ってくれたりするのはおもしろいですね。花瓶状になっている作品は、キャラクターではなくただの花瓶として扱っている方もいて、それぞれの距離感があるんだなと。
今考えているのは、この子たちを幅50センチくらいの大きさに拡大して作ってみたらどうなるだろう、ということ。存在感と迫力が出そうですよね。しかし、焼き物は大きくなればなるほど成形や乾燥にかかる時間も長くなるんです。しかも、しっかり乾燥できてないと焼き途中で爆発します。また、自重で下のほうがつぶれ、ひび割れが起こるリスクもある。難易度は格段に上がるのですが、今後ぜひ挑戦してみたいです。
アーティスト
東海林たぬきさん
1990年、神奈川県生まれ。短期大学のデザイン科を卒業した後、撮影関連の企業に入社。2018年に退社した後、ギャラリースタッフとしての勤務を開始。並行してイラスト制作などを進め、2021年から陶での制作を始める。OIL by 美術手帖での作品販売やギャラリーでの展示などの他、『宇宙人のためのせんりゅう入門』(暮田真名著/左右社)で装画・キャラクターデザインを担当するなど幅広く活動している。